てんてんと

へなちょこアラサー既婚女の世迷いごと

読書記録『怖い女 怪談、ホラー、都市伝説の女の神話学』

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前から疑問に思っていたことがある。
愛しく思っている人を殺すという心理って一体なんなのと。
その疑問は阿部定事件に端を発した疑問だった。
阿部定を最初に知ったティーンエイジの頃には無邪気にエログロと破滅的な愛へのロマンを感じてきゃぴきゃぴしていたように記憶してる。中二病である。

でも自分自身に愛する人が出来るという経験を重ねた結果、彼女の殺意が理解出来なくなってしまったのだ。
いや、愛する人を独占したい気持ちはめちゃくちゃわかるけど殺しちゃったら死んじゃうんだよ!?という気持ちでいた。
例えばキュートアグレッシブという言葉もあるけど、でもそれは殺人に至るまでのことを説明しきれていないと感じていた。

この『怖い女』では阿部定を例に挙げて「愛する男を呑み込む女」について語るチャプターがある。


サロメも、阿部定やリカと同種の女だ。男性への所有欲が高じ、その結果として男性の「部分」を偏愛し、その愛はやがて「部分」のみへの執着へと変わる。
沖田瑞穂『怖い女 怪談、ホラー、都市伝説の女の神話学』197頁より引用

*引用文中のリカというのは五十嵐貴久の小説『リカ』『リターン』の登場人物のこと


正直に言うと所有欲が高じた結果が部分への偏愛に繋がるというのがあまり理解できてないので、全面的に納得できた訳では無い。

でも部分への偏愛というキーワードによって長年の疑問が少しとけた気もした。
同時に「部分を偏愛する」ことについて自分の身に覚えがありまくるので背筋が寒くなった。

「呑み込む」ということは、他を自分の中に回収して自分のものにするということ。愛する者を呑み込むことで二人でひとつの生きものになる(でも自我をもっているのは私だけ)ということ。
愛する人を自分の血肉に変えて、私は生き続ける。愛する者を所有する、独占するということはきっとそういうことなんだろう。

本の全体を通じて感じることは私も「怖い女」になりえるのだということ。
ホラーや都市伝説に登場する女たち(貞子、伽椰子、口裂け女、八尺様など)を神話学的に解釈していくのがこの本の大まかな内容なのだが、それらは現実世界を生きるただの人間である私の話でもあった。
この学びはなんの役にも立たないかもしれない。私が怪異的な何かになる可能性はあんまりないし(生き霊くらいにならなるかもしれないけど)
でも「私は誰かを殺すかもしれない」という自覚があるのと無いのとでは違ってくると思う。