てんてんと

へなちょこアラサー既婚女の世迷いごと

『不例外』のMV感想


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『不例外』のMVのテーマは「NSSI(非自殺的な自傷行為」でした。

 

熊猫堂がこういったテーマでMVを作っていると知って私は複雑な気持ちでいました。 もちろん彼らのことなので真摯な作品作りをしていると信じていましたし、彼らの新しい作品は毎回楽しみに思っていましたが、同時にそれを見た私がどういう気持ちになるのか全く予想がつかなかったのです。

 

というのも私は高校生の頃に今回のテーマである自傷行為をしていたのです。

リストカットをはじめとした自傷行為が止められず、そんな自分の愚かさと弱さを呪い、悔やみ、責めながら生活していました。そしてそんな自分は誰からも受け入れられないだろうと思っていました。

そんな苦しい日々を思い出すと、それがどんな描かれ方をされているのかが気がかりで、見たいような見たくないような気持ちでいました。

 

でも結果的に見て良かったと思ってます。

一番嫌なのは感動ポルノの題材にされることとでしたが、それはありませんでした。 問題がきちんと解決していないという点では綺麗な終わり方の筋書きではないのかもしれません。

でも奇跡めいた出来事が起きない(起こせない)普通の人間が歩いていく道のりの描写として丁寧で温かみがあると感じました。

今でこそ自らを傷付ける行為に距離を置くことが出来ているのですが、止めたくても止められなかった頃を振り返ると、誰かが救ってくれることや周りの人を変えていけることなんて信じられなかったはずなのです。

なので主役の2人が出会って交流していくなかで、それぞれのなかに少しずつ希望が育っていくのを眩しい思いで見ていました。

 

『不例外』の歌詞のなかで私が特に好きで特に苦しくなってしまう部分は

「我的无害喜不喜欢 不敢猜你的答案(私の無害さが好きですか?あなたの答えを知るのが怖い)」

なのですが、何故ここなのかというと私が人に言いたくても言えなかったことだと感じるからです。

他人は無害でいい子な私を好いているのだろうと思っている時にはそんなこと聞けません。そんなこと聞くのはいい子ではないから。

でもいい子でいなきゃって思いで自らを抑圧した結果が自傷行為に繋がってしまったのです。他人に向けては刃物も拳も、ましてや言葉さえも向けられず、自分自身に向ける羽目になってしまったのです。そしてそういうことをしてしまう罪悪感からまた自分を責めては自傷するという悪循環でした。

 

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正式版では熊猫堂メンバーは青い傷メイクをまとっていますが、あれは可視化された心の傷なのではと思っています。

みんなそれぞれ違う場所に違う理由でついた傷と共に生きている。ぼろぼろで不格好に生きて、それでも誰かに与えられるものを持っている(傘、風船、プレゼント、水、花束)

「愛の本質は与えること」とはフロムの受け売りですが、自身が傷ついても愛することを諦めないことこそ愛に辿り着く方法なのかもしれません。

『不例外』をはじめ『emo了』の収録曲は「現実は苦しいしままならないことの方が多いし傷付くことも傷付けることもあるけれど、それでも」の「それでも」以降を歌っていて、それによって熊猫堂のアイドル像が新しい顔を持ち始めたと感じました。 暗闇の中にいる人の「微かでも光が見たい」という願いを向けられる偶像という新しい顔が彫刻されたのだと感じます。